ミダス王はフリギア王国最盛期時代の王で、彼に関する2つのギリシャ神話が有名です。
「ミダス王と黄金」 「王様の耳はロバの耳」
(写真左は、ゴルディオンの古墳で発見されたミダス王と思われるブロンズ像。アンカラ考古学博物館に展示)
「ミダス王と黄金」
フリギア王国を治めるミダス王は莫大な富を有し、バラ園に囲まれた大きな城に住み贅沢な暮らしを送っていました。豪華な食事をし欲しいものは全て手に入れ、毎日自分の持つ黄金を数えては放り投げ、黄金を浴びながら喜びを感じでいました。
そんなある日、酒と富の神ディオニソス(バッカス)がフリギア王国を旅している途中、同行していた師であるシレヌスが酔っ払ったままどこかに消えてしまいました。彼はミダス王のバラ園に迷い込みそこでそのまま寝入ってしまったのでした。
翌朝ミダス王の元に連れられた者がシレヌスとわかると、王は彼を11日間手厚くもてなし、その後ディオニソスの元に安全に送り届けたのでした。ディオニソスはシレヌスが無事に戻ってきたことに大変感謝しミダス王にどんな望みでも叶えてあげると約束したのでした。
ミダス王はすぐに「私が触れる物全てを黄金にして欲しい。」と答えました。ディオニソスは「本当にそれがあなたの望みなのですね。」と念を押した上で翌朝からその望み通りになるように魔法をかけました。
翌朝、ミダス王は魔法の効果を試そうとウキウキしながら起き上がり、手当たり次第いろいろなものを触り始めました。するとディオニソスの約束通り、全てが黄金に変わったのでした。大喜びしたのも束の間、何かをしようとしても全てが黄金に変わってしまうため何もすることができません。しかも朝食を食べようとしても食べ物全てが黄金に変わってしまい何も食べることができないのです。飢えに耐えかねた王は魔法を解いてもらおうとディオニソスに懇願することとなりました。
「ディオニソスよ、黄金は私が本当に欲しかったものではないことがわかりました。私は既に欲しいもの全てを手に入れている。だからもうこの魔法を解いて下さい!お願いします。」ディオニソスは親切な神であったためミダス王の願いを受け入れ魔法を解く方法を教えました。「パクトルス川(現在のゲディズ(Gediz)川)に行き水源を探しなさい、そしてそこに身体を沈め自己の過ちを改めるのです。)
ミダス王はディオニソスの教えに従い、自分のおろそかな考えを悔い改めました。すると川底が砂金に変わり魔法が解けたのでした。
〈補足〉
この神話はフリギア王国がどれほど富を得ていたか、財宝だけが幸せの証しではない、人は常に願い事をするときは注意深くなければいけない等という教えを説いたものと言われています。又、実際にゲディズ川には今でも砂金が採出されています。
「王様の耳はロバの耳」
黄金の魔法の後、ミダス王は富や贅沢を嫌い、自然を愛するようになりました。そして野原の神パンを崇拝するようになったのでした。そんなある日、パンは音楽の神でリラの名手アポロと音楽で競うことを提案し、審判として山の神トモロスが選出されました。
まずはパンが笛の演奏です。美しいメロディーにパン自信は満足し、同席していたミダス王も感嘆しました。次にアポロのリラの演奏が始まりました。するとその瞬間、そのうっとりするようなメロディーに審判のトモロスはすぐにアポロの勝利を告げたのです。
しかしミダス王は納得いきません。パンの演奏の方が素晴らしかったと主張すると、アポロは自分に対する侮辱に耐えかね怒りが爆発。音楽の良さがわからないような耳はロバの耳にしてしまえ!と言ってミダス王に魔法をかけました。すると王の耳は長く伸び、毛深くなって本当にロバの耳となってしまいました。
ミダス王はロバの耳に変わってしまった災難を非常に恥ずかしく思いましたが、耳なら大きな帽子や被り物でなんとかかくすことができると自分を慰め続けました。数ヵ月後、髪が伸びどうしても床屋に行かなくてはいけなくなりました。今までロバの耳を隠しとおしましたが、床屋にはどうしても隠すことができません。悩んだあげく、床屋には絶対に秘密を漏らさぬように、もし誰かに告げるようなことがあれば恐ろしい罰が待っていると警告したのでした。
王様の耳の事実を知ってしまった床屋は、みんなに言いたくてたまりません。しかし秘密を明かすと罰せられるため、毎日悶え苦しんでいたのです。けれどもとうとう我慢しきれなくなり、牧草地に走り、地面に穴を掘り、身をかがめ、穴に向って「王様の耳はロバの耳!」という言葉を吐き出し、すぐに土をかぶせて穴を閉じ、床屋はやっとすっきりした気分に戻れたのでした。
まもなく、牧草地の葦の束が現れ、風とともに「王様の耳はロバの耳!」という囁きが響きはじめました。そしてその後も風が吹くたびに「王様の耳はロバの耳!」の声があちこちに流れ始め、王様の秘密が知れ渡ってしまいました。